世にも奇妙な磁石

 重い電子系の中には、低温に冷やしたとき、電子が"固化"して磁性体になるものや、液体状態(フェルミ 液体)のまま絶対零度まで安定に存在するものがあります。いずれの場合にも、クーロン斥力が重要な役割を果たしています。一方、超伝導のクーパー対の形成 には引力が必要です。では、重い電子系は超伝導を示し得ないのでしょうか?答えはノーで、重い電子系(強い斥力の系)でありながら超伝導になる物質がこの 自然界には存在します。もっと不思議なのは、「磁気秩序と超伝導の共存」を示す磁性超伝導体が存在することです。従来の固体物理学の常識では、磁気秩序は 超伝導を壊すことはあっても作り出すことはないだろうと考えられていました。しかし、私たちは、反強磁性状態にあるからこそ超伝導が生じること(UPd2Al3における磁気励起子が媒介する超伝導)を実験的に証明しました。先のデュアリティーとの関連で言えば、f電子の局在成分が磁気秩序を生みだし、遍歴成分が超伝導電流を運びます。

  超伝導体と磁石は磁場に対して全く異なる応答を示します。このマイスナー効果(超伝導リニアモーターカーの原理に関連)と呼ばれる物理法則に矛盾する物 質、即ち「超伝導になる磁石」(超伝導磁石とは異なります)が21世紀に入り相次いで発見されました。その典型例のUCoGeに対し、私たちは他大学との 共同研究により、その超伝導メカニズム(量子臨界点近傍の磁気揺らぎが媒介する超伝導)を解き明かしました。

 UPd2Al3やUCoGeは神様が私たちに与えた「練習問題」に過ぎないかもしれません。さらに大きな難問(UGe2の超伝導メカニズム)が私たちの挑戦を待っています。


半導体の中に潜むボース凝縮

 強い斥力を感じながら動きまわる「重い電子」がクーパー対を形成するのは至難の業です。これに対し、半導体中の電子は、その抜け穴として生じた 「正の電荷を持ったホール(正孔)」と、エキシトンと呼ばれる対を容易に形成します。このエキシトンはボース粒子ですが、クーパー対と同じように、ボース 凝縮を起こすのでしょうか?理論的には可能ですが、実験的には未だ確立されていません。

 価数揺動半導体と して知られるSmSは大気圧では黒色ですが、圧力を加えると(たとえばピンセットなどで表面をひっかくと)金色に転移します。この不思議な物質の内部で は、電子とホールが弱く結合したフェルミ統計の世界と、エキシトンの従うボース統計の世界が、圧力によって入れ替わる(クロスオーバーする)ように見え、 後者の圧力領域では、エキシトンのボース凝縮が期待されます。これが立証されれば、面白い物質世界へ通ずる道が切り開かれるでしょう。


結晶を超えて:準結晶における量子臨界性

 磁石や超伝導体あるいは半導体の基礎概念は、「結晶の持つ周期性」に立脚しています(例えばブロッホの定理)。この根底を揺さぶったのが1980年代に 発見された準結晶(2011年にノーベル化学賞が授与)です。この「第3の固体」の発見以来、幾何学的あるいは数学的理解(黄金律やフィボナッチ数列、ペ ンローズ・タイリング、フラクタルなど)は大きく進みましたが、電子状態の量子力学的理解は全くと言っていいほど進んでいません。この困難な状況を打開す るのではないかと期待されているのが、私たちの「価数揺動準結晶Au-Al-Ybにおける奇妙な量子臨界現象の発見」です。この謎に満ちた物質を調べていくことにより、ブロッホの定理に代わる新しい原理の発見に至るかもしれません。